第1 設問1
1 裁判所がyの代理人Aとxとの間で契約が締結されたとの事実を認定することは弁論主義反しないか。
2 ここに弁論主義とは判決の基礎となる事実主張と証拠の提出を当事者の権能かつ責任とする建前をいう(159条、179条)。その根拠は当事者意思の尊重にあり、その機能は当事者に対する不意打ち防止にある。この建前から、裁判所は当事者のいずれもが主張していない事実を判決のきそとしてはならないという主張原則が導かれる。おの主張原則により、裁判所はたとえ証拠調べの結果からある事実の存否について心証を得たとしてもその事実がいずれの当事者からも主張されていない場合にはその事実を判決の基礎にはできないこととなる(証拠資料と訴訟資料の峻別)。そして、弁論主義の対象となる事実は、当事者に裁判所の認定判断wコントロールする地位と機会を与えるべく、権利の発生、変更、消滅等
導く実体法条の法律要件に該当する具体的事実すなわち主要事実をさすと解する。
3 代理行為の効果が本人に帰属するための主要事実は①代理人による締結、②顕名、③先立つ代理権授与である。
本件では、Aの証人尋問によりAがYの代理人としてXと売買契約を締結したことが検出し、その旨の心証が形成されているものの、両当事者とも「AがYの代理人であったか否か」については問題とせずその点について主張していない。
そのため、裁判所が心証通りの事実を認定することは弁論主義に反し許されないのが原則である。
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第2 設問2
1 小問(1)
(1)まず、基準の明確性及び当事者の訴訟追行の柔軟性を確保するため、訴訟物とは、実体法上の厭離又は法律関係をいうと解する。よって本件における訴訟物はXのYに対する贈与契約(民法549条)に基づく絵画引渡請求権である。そして贈与契約は片務無償契約だから、「YはXから200蔓延の支払を受けるのと引き換えに、、Xに対し本件絵画を引き渡せ」との判決、すなわち売買契約(民法555条)に関する引換給付判決をすることは、「当事者が申し立てていない事項について判決をすること」(246条)にほかならず、処分権主義に反し許されない。
(2)では、各当事者からどのような申立てや主張がなされれば200万円とかいがとの引換給付判決(以下「本件判決」)をすることができるか。
贈与契約に基づく絵画引渡請求(請求ア)と売買契約に基づく絵画引渡請求(請求イ)とを比較すると、請求イには請求アにはない代金額支払合意が請求原因として必要でアル。このように原告が請求又は請求の原因を変更することを訴えの変更(143条1項)というから、当事者が訴えの追加的変更の申立てで主張をすれば本件判決をすることができる。
(3)では、本件で訴えの変更の申立て、主張があるといえるか。
訴えの変更が認められるためには「請求の基礎に変更がない」こと(143条1項本文)が必要だが、この要件は防御対象が無関係なものに変更されて被告が困惑することを防ぐためのものである。そこで請求の基礎の同一性は①両請求の主要な争点が共通であり、旧請求の訴訟資料や証拠資料が新請求に利用でき、②両請求の利益主張が社会生活上共通するといえるときに認められる
本件の請求アとイは財貨の移転すなわち絵画引渡が共通し、同じ契約についてその性質に代金の支払の合意があったか否かのみが異なるといえ、主張な争点が共通であり旧請求の訴訟資料や証拠資料が新請求に利用でき、両請求の利益主張が社会生活上共通するといえる。
したがって、請求アとイは「請求の基礎に変更がない」といえる。
(4)「請求」(143条2項)について、同条1項の「請求又は請求の原因」にいう「請求」は「請求の趣旨」のみを指すから、143条2項にいう「請求」も同様に請求の趣旨のみをッ指すと考える。
本件は代金額支払合意の有無という請求原因の変更であるから、書面によることなく訴えの変更が認められる。
(5)よって、Xによる本件絵画の代金200万円による売買契約に基づく引渡請求の追加的予備的訴えの変更が認められるから裁判所は本件判決をすることができる。
2 小問(2)
(1)本件絵画の時価相当額が200万円と評価される場合どのような判決をすべきか。この場合、裁判所はYはXから220万円の支払をうけるのと引き換えにXに対し本件絵画を引き渡せとの判決ができるか。
この判決は200万円との引換給付判決を求めるXとの関係で一部認容判決にあたるが、当事者意思の尊重と不意打ち防止という処分権主義(246条)の根拠、機能から一部認容判決も①原告の合理的意思に反せず、②被告に対する不意打ちとならない場合には処分権主義に反せず許されると解する。
本件において、Xの合理的意思とすれば、あくまで絵画の引渡しを請求している以上、20万円多く支払ったとしても本件絵画の入手を望むだろうから、220万円との引換給付判決はXの合理的意思に反しない。また、Yも20万円多く得られるのであるから不意打ちとならない。
よって220万円との引換給付判決をすべきである。
(2)これに対して、YはXから180万円のしはらいを受けるのと引き換えにXに対し本件絵画を引き渡せとの判決をすることはどうか。
本件でXは200万円とのひきかえきゅうふはんけつを求めているところ、180万円のしはらいで済むならXに有利であり、その合理的意思に反するとは言えない。しかし、YとすればXの主張する200万円は受け取れることを前提に防御していたはずであるのに時価相当額として180万円を認定するkとはYにとって不意打ちとなる。
したがって、裁判所は180万円とのひきかえきゅうふはんけつはできないから、Yにとって不意打ちとならず、心証 200万円の引換給付判決をすべきである。
第3 設問3について
1 既判力(114条1項)とは、前訴確定判決の有する後訴に対する通用力ないし拘束力をいう。その趣旨は、紛争の蒸し返し防止にあり、正当化根拠は基準時における当事者の手続保障の充足にある。
そして「主文に包含するもの」とは、訴訟物の存否の判断を指すから、その判断についてのみ既判力が生じるといえる。
2 本件において、前訴では予備的請求たる売買契約にも続く本件絵画引渡請求が認容されているから、売買契約に基づく絵画引渡請求権の存在につき既判力が生じている。
前訴判決は200万円のしはらいとの引換給付文言が付加されているが、これは失効開始条件(民事執行法31条1項)を定めたものにすぎず訴訟物ではないから既判力は生じない。
そして、後訴の訴訟物は本件絵画売買契約に基づく代金200万円の支払請求権だが、前訴の訴訟物は本件絵画引渡請求権であり、両者は同一、先決、矛盾のいずれの関係にもない。
したがって、後訴に前訴の既判力は及ばず、後訴においてXが本件絵画取引は贈与であるとか代金額150万円が相当との主張をすることは、前訴既判力は抵触しない。
3 しかし、このような主張をすることは紛争の蒸し返しに当たり信義則(2条)上許されないのではないか。
信義則の適用が認められる紛争の蒸し返しというためには、前訴と後訴の訴訟物が社会生活上同一紛争に起因し、内容上高い関連性があること、後訴における請求主張の提出が前訴で期待できないことを総合考慮して決すべきである。
本件においてたしかに前訴で本件契約が贈与か売買かは争点であったし、絵画の評価額も争点であった。また、前訴と後訴は社会的に同一紛争といえる。しかし前訴はいわゆる本人訴訟であり、Bの証言や古物商による評価を主張することは期待しえなかった。
したがって、後訴におけるXの主張は信義則に反するとはいえず許される。